
翌日曜日の富士スピードウェイも快晴に恵まれ、気温15℃と爽やかなコンディションで迎えた。フリー走行ではまず伊藤がコースインも、実戦さながらのピット作業ですぐにビルドハイムに交代。ビルドハイムは1分36秒350を叩き出してその時点でトップに浮上すると、セッション半ばに再び伊藤に交代し、午前9時のチェッカー近くまで周回を重ねていく。このセッションのENEOS SC430はポールシッターである#35 SC430には及ばなかったものの、期待どおりの2番手となった。
これを受けて山田エンジニアは、「タイム的には良いのですが、決勝を考えればピークのタイムはあまり必要ないと考えています。それよりも、もっと安定して高いレベルのラップタイムが刻めるよう、タイヤにも優しいマイルドなセットアップにしたい」という。前日同様、路面温度が30℃を超えることが想定される決勝では、タイヤの消耗をより考慮しなければならないというわけだ。
400kmの長丁場に臨むENEOS SC430はフリー走行からさらなるセットアップ変更が施され、ダミーグリッドに着く。今回スタートドライバーを務めるのは、なんと2008年の第2戦岡山以来となる伊藤である。
実は、山田エンジニアとチームが想定していたのは、3スティントすべてでソフト系のタイヤを使うというものだったが、気温21℃、路面温度32℃と暑くなったコンディション、そして状況次第では、ビルドハイム担当の第2スティントで硬めのミディアム系タイヤの投入も“オプション”として、その可能性を残していた。前日の公式練習やこの日のフリー走行でビルドハイムはこのミディアム系のタイヤを試しており、ロングランでも好タイムをマーク。決勝で充分に“使える”という手応えもつかんでいた。それゆえチームは、走行中にタイヤの状況を伝えるチームとのコミュニケーションの上でさらなる正確を期すための表現の部分で障害のより少ない伊藤を、あえてスタートドライバーに決めた、という背景があったのだ。
「ひさびさのスタートでしたが、以前コンビを組み、スタートのうまさを良く知るラルフ・ファーマンが実質4番手スタート(4番グリッドの#23 GT-Rはピットスタート)だったので、彼の動きを気にしすぎて、加速のタイミングがわずかに遅れてしまいました。あれではダメですね。我ながら情けない」と苦笑いで振り返った伊藤は、スタート直後の1コーナーでファーマンの#8 HSV-010の逆転を許し、4番手に後退。しかし、背後の#38 SC430とのギャップはじりじりと開きつつ、決勝序盤は安定した周回を重ねていく。
ところが、スタート直後は他車の撒いたオイルで路面が不安定になり苦戦、6周目に1分36秒682をマークした伊藤はその後、上位陣と遜色のないペースで周回を重ねていくが、10周前後から前の#8 HSV-010とのギャップが2秒前後に拡大してしまう。路面温度が上昇したこともあり、「想定以上にリヤの摩耗が厳しくなってきて、このまま走り続けていると、ひょっとしたら大きく前に離されてしまうかもしれない」と考えた伊藤はピットに無線を入れる。「1回目のピットに関しては、できればレースの3分の1に当たる30周前後に、と考えていた」という山田エンジニアだったが、伊藤の情報を受け、黒澤琢弥監督らスタッフと急遽協議に入った。
「仕上がりやウエイトの関係で#35 SC430が上に行くのは仕方がない。しかし、チャンピオンシップを考えた時にこの富士でのターゲットとなるのは、ポイントを争っている#1 SC430。HSV-010を挟んで僅差で競っているとはいえ、2番手を走っている#1 SC430に対し、前に出られる可能性があるとすれば、ミディアムでは伊藤を上回るペースを見せていたビルドハイム。彼のスティントでミディアムを履くことが、ソフトよりもチャンスを生み出すかもしれない」と考えていたという山田エンジニアと黒澤監督だが、このとき、コンクリートウォールにいた彼らのもとにビルドハイムが駆け寄った。
「次のタイヤをどうしようか……?」
ビルドハイムも同じことを考えていた。「昨日、そして今日のフリー走行とミディアムで走って、フィーリングは決して悪くない。タイムも良いし、持ちも良かった。ミディアムで行こう!」
高速サーキットでオーバーテイクはさほど難しくない富士とはいえ、このままずっと周回を重ねても、#1 SC430の前に出るチャンスは少ない。コクピットの伊藤も「早めに入るならば、ビヨンのスティントが結果的に長くなってしまうし、ミディアムの方が良いかもしれません」と同意したことを受け、「それならば、早めのピットイン+ミディアム系タイヤに戦略を切り替え、最初に動こう」と決断した黒澤監督以下のチームは、上位陣の先頭を切って23周終了時点で伊藤をピットインさせる。26.8秒という迅速なピットストップタイムで給油とタイヤ交換を行なうメカニックたち。もちろん、タイヤはミディアムだ。
コースに戻ったビルドハイムは、真っ先にピットインしたことから一時は11番手までドロップしたが、そこからミディアムタイヤでのロングランペースの良さを活かしてじりじりとポジションを上げていく。そして35周目、トップに立っていた#1 SC430がピットインし、ドライバー交代。その#1 SC430は、予想どおり5番手までポジションを回復して来ていたビルドハイムの目前に、ピットアウトしてきた。
「前に#1 SC430が見えたので、なんとか捕まえようとプッシュした」というビルドハイムは、ミディアムタイヤながらも1分36秒700という自己ベストをマークするなど必死に前を追う。なんとか1秒前後にまで詰めるが、周回遅れなども出現し、仕掛けるまでには接近できない。
しかし、このビルドハイムの踏ん張りでレース半ばに3番手に浮上したENEOS SC430は、60周目に2度目のピットインを敢行。残り28周となったことで、最後の伊藤のスティントには再びソフト系タイヤを装着。レース後半、1分36秒台のハイペースで周回を重ねた伊藤は、#1 SC430を捕えることこそできなかったものの、見事3位でチェッカー。ENEOS SC430は今季2度目の表彰台を獲得した。
「本来は、他チームのように3スティントともにソフト系のタイヤで繋げられれば良かったとは思いますが、重いウエイトを考えると、今日の段階ではそれがやや難しかった。そのあたりは今後に向けた課題になると思います」とレースを終えた伊藤。
「ん~、今回のポイントは……“伊藤大輔、ひさびさのスタートを失敗”の巻、ですかね(笑)。42kgというトップハンデで挑み、次回の(第4戦マレーシア)セパンでは64kgというわけですから、シリーズを上位で戦っていく中で、どうしても付き合っていかなければならない重いウエイトを積んだ状態でのクルマのセッティング、ドライバーの走らせ方という部分で、良い意味で課題を見つけることができたレースになりました。課題が見つかった、というのはネガティブなイメージもあるかもしれませんが、苦しい状況でもきちっと3位という表彰台でフィニッシュし、多くのポイントが獲れたということで、今季のチームの安定した強さのようなものを感じることができましたね」
2ポイント差でポイントリーダーの座を#1 SC430に譲ったENEOS SC430の次戦のウエイトは、さらに増えて64kg。ただでさえ酷暑で知られるセパンでは厳しい戦いが予想されるが、3戦を終えて2回表彰台を獲得するなど安定した戦いを続けているだけに、難題を乗り切る好レースが期待できよう。