
開幕戦鈴鹿の2位表彰台以降、第2戦岡山5位、第3戦富士3位と、上位入賞を続けるなど、安定した戦いを見せる今季のLEXUS TEAM LeMans ENEOS。ポイントリーダーの座こそ#1 SC430に明け渡したものの、ここまで32ポイントを獲得し、ポイントランキングは2位。上々のシーズンスタートを切ったENEOS SC430だが、シリーズ唯一の海外ラウンドとなる第4戦セパン(マレーシア)でのウエイトハンデは64kgと非常に重く、酷暑ということもあって、下馬評では「ウエイトの重い6号車は、今回は上位入賞はないだろう」という声が圧倒的だった。
ところが、ピット設営を終えた金曜日の夕方、山田健二エンジニアは「今大会の目標は8~11ポイント」と口にした。これはすなわち、3位か4位に入賞することを意味する。すでに前戦富士でのウエイトハンデ42kgでさえ、LEXUS TEAM LeMans ENEOSにとっては未知の領域だったはずだが、そこから12kg増の64kgで設定する目標としては高すぎはしないだろうか。
「富士での経験を踏まえ、ウエイトが重い状態でのテストをやってきました。主なテーマとしては低重心化の追求です」という山田エンジニアは、あくまでも現実的な目標として再び3~4位を明言した。「レースですからいろいろな状況があるので確実に、とは言い切れませんが、不可能な目標ではないはずです」。
だが、走行開始となる土曜日午前の公式練習でいきなり、この山田エンジニアの言葉がグッと現実味を帯びた。セッション開始から約1時間が経過した午前11時03分、エース伊藤大輔のドライブするENEOS SC430は1分59秒004という好タイムをマーク、その段階でのモニターのトップに浮上したのである。
「走り始めからアンダーオーバーが強くて……。やはりウエイトの影響はあるな、と」と伊藤。「けれど、決して自分たちのフィーリングが完璧ではないのに、ポジション的には常にトップに近いところに位置していたので、ライバル勢と比較して相対的には悪くない、と思いました」
この公式練習では最終的に#12 GT-Rに僅差でトップを譲ったものの、ENEOS SC430は2番手で走行を終了。山田エンジニアは充分な手応えを得た。「同じようにウエイトを積んでいるマシンたちの中ではかなり良いタイムも出ているし、いろいろ準備してきたことの効果はあったなと感じました」。
今大会の予選はスーパーラップ方式を採用しており、午後2時15分からの予選1回目のターゲットは、伊藤とビヨン・ビルドハイム、ふたりのドライバーの基準タイムクリア、そしてスーパーラップ進出圏内となるトップ8への進出である。だが、この予選1回目を前にしたミーティングで山田エンジニアはこう切り出した。
「予選1回目でミディアムを試したい……」
これを受けた伊藤は、一瞬戸惑いを感じた。実は、朝の公式練習で伊藤がベストタイムをマークしたタイヤはミディアムハード。予選1回目で山田エンジニアが試そうというミディアムよりもワンランクハード寄りのコンパウンドだった。
「決勝での戦いを考えた時、やはり予選ではできるだけ前からスタートしたい。さらに万一、決勝日の気温が上がり、路面温度が高くなれば、どのみちミディアムでもミディアムハードでも長い周回は持たない。ミディアムは昨年の実績もあるタイヤだし、試してみないか?」という山田エンジニアを見て、このとき伊藤は思ったという。
「健二さんに火が点いちゃった(笑)。スーパーラップに向けて、箸にも棒にも掛からないような状況なら、決勝用のセットアップに集中しよう……なんて言っていたけど、健二さん的には自信もあったと思う。この公式練習の結果を受けて攻めの姿勢で行くことは必要だし、決してギャンブルじゃない」
この山田エンジニアの“攻め”への提案をチームはもちろん、伊藤とビルドハイムも快諾、予選1回目に向けてENEOS SC430はミディアムタイヤをチョイスする。これまでは比較的手堅い、コンサバな選択をしてきたチームだったが、ここまでの流れを踏まえた上で山田エンジニアは言った。
「たしかにこれまではコンサバ路線が多かったと思います。だけど、これからは攻めていかないと。突拍子もないギャンブルは今後もしないだろうけれど、今回のようなさまざまな選択肢の想定の中で、攻めることはチャンピオン争いを考えれば必要なんじゃないかと」
迎えた予選1回目。午後2時15分からのセッションでは、まずGT500とGT300の混走時間帯にビルドハイムが基準タイムをクリア。代わって伊藤がラスト10分間のGT500専有時間帯でのアタックに向け、セットアップを確認。ENEOS SC430はすでにこの段階で1分58秒973をマークし、3番手の好位置につけていた。
GT300の専有時間を挟み、ラスト10分間のGT500専有走行がスタート。3分ほどピットで待機した伊藤は午後2時58分にコースイン、ゆっくりとタイヤを温めていくと、残り3分を切ったところで渾身のアタックを見せる。結果は1分57秒839。堂々の暫定ポールタイムだ。
「クルマはだいぶ良い感じになりました。これなら、夕方のスーパーラップもこのままミディアムでアタックできると思います。ただ、アタック用ということでクールスーツデバイスを降ろしての予選でしたが、さすがに暑いですね(笑)」