
ステアリングを引き継いだ伊藤は、タイヤのコンパウンドをビルドハイムと同じミディアムではなく、ミディアムハードを選択。周回数が残り30周以上もある状況では仕方のない選択だった。
ところが翌周、ポジションを争っていたMOTUL AUTECH GT-Rがアウトラップを終えようとする伊藤の眼前でピットアウト。タイヤの冷えている間にこのGT-Rを仕留めておきたい伊藤は「プッシュ!」との山田エンジニアの指示を受けGT-Rを追うが、その直後の2コーナーで伊藤の駆るENEOS SC430は周回遅れのGT300マシンに遭遇。あまりのペースの違いにタイミングのズレが生じ、ENEOS SC430の右フロント部分が前のポルシェのリヤに接触してしまう。
両車にスピンなどはなく、コーナーを立ち上がった2台だったが、なんとENEOS SC430の右フロントのタイヤハウス内のインナーフェンダーに若干のダメージがあり、そこからわずかながら白煙が上がるのをモニターで確認できた。黒澤琢弥監督以下、ピットスタッフに緊張が走る。
ライバル陣営のピット作業の間にじりじりとポジションを上げた伊藤は、35周を過ぎるあたりでは6番手を走行。しかし、背後の#17 HSV-010はペースが非常に速く、40周目についに先行を許しENEOS SC430は7番手に落ちた。
ところが、ここから信じられない展開が待っていた。上位争いによる接触が続き、#100 HSV-010と#23 GT-Rに対し、立て続けにドライブスルーペナルティが下ったのだ。これにより、ENEOS SC430は43周目には6番手に復帰。さらに49周目には5番手を走行していた#8 HSV-010がドライバーの熱中症のために後退を余儀なくされたことで、伊藤は労せずして5番手に浮上する。
波乱はさらに続き、2番手を行く#17 HSV-010が他車のスピンに巻き込まれる形でコースオフし、脱落。残り2周という土壇場で、ENEOS SC430は4番手にまで浮上する。
ENEOS SC430は結局そのままのポジションでチェッカーを受けた。終わってみれば、レースウイーク前に山田エンジニアが立てた目標をクリアする4位という好成績でフィニッシュ。
「ツイてるでしょう!? ちょっと今年のENEOSはツイてますよ!(笑)」と笑顔を見せた伊藤。「決勝では予選のようにうまくいかないことは予想できていたので、その中でどれだけしぶとく我慢できるかがポイントのレースでした。ビヨンは序盤、あれだけのハイペースの中で戦うことになり、タイヤを使わざるを得なかった。頑張ってくれたけれど、最後はガクンとペースが落ちましたよね。それで僕が引き継ぎましたが、できればビヨンと同じミディアムでという気持ちはありましたが、残り周回数を考えるとミディアムハードを選ばざるを得なかった。その分、温まりに時間がかかり、アウトラップが思ったように速く走れなかったという状況はありました。途中、タイヤの持ちが良さそうなホンダ勢に突っつかれる形でしたが、タイヤをマネージメントするために我慢しつつ抑えて……。後半になると、自分のタイヤも厳しくなっていったのですが、ライバル勢にアクシデントやペナルティなどがあって、非常にラッキーな形でポジションを上げられました」と一気に話すと、「正直、レースウイークを前に、個人的には今回は5位に入ることができればまずまず、と考えていました。それが4位。しかも、これまで以上に攻めて、チャレンジした結果での4位というリザルトはとても意味のあるものになりました。まさに今年のENEOSの運を象徴するかのようなレースでしたね! でも、この運を呼んでいるのはメカニックの頑張りと、スタッフみんなが持っている良い緊張感です」と波乱の一戦を締め括った。
セパン戦を終えたENEOS SC430は獲得ポイントを40に伸ばし、3ポイント差でポイントリーダーの座に復帰。次戦SUGOでのウエイトハンデは80kgとさらに厳しくなる。セパン以上にウエイトが影響するコースだけに、苦しい戦いも予想されよう。しかし、今季のENEOS SC430はアゲインストの条件でも速さを存分に見せてきた。後半戦、念願の初勝利、そしてタイトル獲得に向けて、ドライバーとスタッフの士気は高まっている。